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【開催報告】国際理解実践フォーラム「私を知る~ひょうたん島問題から多文化共生を考えよう~」

【開催報告】国際理解実践フォーラム「私を知る~ひょうたん島問題から多文化共生を考えよう~」

20回目となる国際理解実践フォーラムが、規模を縮小し3月に開催された。企画メンバーは、大学、高校、小学校の教員、NPOのスタッフと、事務局も担うJICA山形デスク、IVY担当者の計6人で、毎月1回IVY事務所で企画会議を行なっていった。

教員からの問題提起

メンバーの一人である教員から、「外国につながる子どもたちの学校での対応についてフォーラムで取り上げてはどうか」と提案があった。

担任しているクラスに進路のことでなかなか決まらない生徒がおり、生徒と親からよくよく話を聞いてみると母親が外国人であること、母親は地域とのつながりがほとんどなく家にいることが多いこともあり、日本の教育事情についてあまりわかっていない様子が窺え、そのために生徒との間に受験に対する認識のズレが生じ、親子関係までねじれてしまっていたことがわかった。

進路を決める時期になって初めて、外国につながる生徒であると判明したことは衝撃であり、少なくとも入学時からわかっていたならば早めに対処できたのではないかと思う...とのことであった。

日本で生まれた、あるいは、小さい頃に日本にやって来た中国、韓国などにつながりのある子どもたちは、日本語を普通に話すことができ、見た目が私たちと変わらず、名前も日本名の場合がある。そうすると、親が学校に来ない場合、そして、本人が言い出さない限り、外国につながりがあることに周りの人たちがまるで気付かないまま学校生活を送ることになる。

表立った問題が起きてなかったとしても、本来であれば何らかの配慮が必要になる場合もあると思うのだが、問題が起こる前、起きてからも、実際にはどのように子どもたち、その親である方々に接したら良いのか、その場に遭遇した教員は、戸惑い、悩むケースも少なくないと推察される。

そこで、問題の解決にまでは至らなくとも、考える糸口を提供できないかと、多文化共生ワークショップ「ひょうたん島問題」の移民の学校教育を扱った部分と、学校生活を日本で送った外国につながる当事者である大学生2人を招きパネルトークを行なった。

ワークショップ「ひょうたん島問題」

ワークショップ「ひょうたん島問題」とは?
海を漂うひょうたん島に、カチコチ島、パラダイス島の人々が移住してきたことから起こる、コミュニケーション、文化・祝祭、言語・教育、集住と分離、資源・環境など、さまざまな社会問題を、参加者がひょうたん人、カチコチ人、パラダイス人にそれぞれになり、議論を重ねていくことで、多文化共生について考えを深めていく内容になっています。

今回は、「あいさつがわからない」と「ひょうたん教育の危機」の2つを行なった。

アイスブレーキング「あいさつがわからない」

3つの島のあいさつはずいぶん違う

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ひょうたん教育の危機

言葉や教育における価値観の違いがある中で、多数派は少数派の文化的同化を求め、一方少数派の主張も明確になってくることで、教育における対立が起こり、社会問題になっていくことに気づくことをねらいとしている。

参加者の役割は、下記の5つ

●ひょうたん教育委員長 ●パラダイス学校建設運動協議会代表 ●ひょうたん学校教員 ●カチコチ経済人連合会代表 ●司会

まずは、グループで役割を決める。そして、それぞれの役割を理解するため、同じ役割になった人同士で集まり話し合う。

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グループに戻り、それぞれの役になり、主張をぶつけ合う。

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グループワークのあと、役割の4つの立場と関連する政策について解説を行なった。

パネルトーク 「外国につながる児童生徒との関わり方」

海外から家族とともにやってきて小学校から仙台の学校に通い、現在山形で大学生活を送るAさんと、山形で日本人の父と外国人の母の間に生まれ育ったSさん(現在東京で大学生活を送る)の二人に登壇していただき、お話を伺った。

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2人が話してくれたこと、伝えたかったこと(事前の聞き取りも含めて抜粋)

  • 振り返ってみると、日本人なのか、〇〇人なのかではなく、個人として接してくれる人が周囲には多かった。
  • 親が外国人だと、親の文化が違う、日本人はこうあるべきというようなことに対しても日本人の親と違うし、育て方、教育に対する考え方の違いもある。
  • 外国につながりがあり違って当たり前なのに、先生はみんなと同じように接しようとする。日本人も一人一人違うのだから、その人にあった教育をしてもらえたらと思う。
  • 小学校の時、友達から竹島は日本だろうと言われたことに対して、周囲が「いじめではないのか?」という反応になってしまった。話し合う機会として捉えることは出来なかっただろうかと思う。
  • タイミングによって、ハーフであると言うこともある。「お母さん外国人なんだぜ」などと言うと意外に周囲に広がっていく。でも、大半の人は知らない。
  • ハーフであることは、気にしてなかったし、気にしない方がいいと思っている。今後も日本で暮らしていくだろうけれど、母のルーツが外国にある以上、その国とは切っても切れない関係である。母の国はちょっと気になる存在であり、母親が外国人であるということは、考える機会があるということでもある。
  • 恥ずかしい感覚、(親を)外国人と思われたくないではなく、他の親とは違うことに対する感情ではないか。これは、日本人の子どもにもある。
  • 小さい頃は自分は日本人だと思っていたので、親が普通じゃない、日本人の親とは違う、民族衣装っぽい服装などに対して恥ずかしいと思ったことがあった。
  • 中学生になり、同じ学校にいた子が外国人であることを恥ずかしがってないのを見て、気にしなくなった。 
  • 差別を受けてないのに、周囲の見る目が気になった。自意識過剰だったんだろうか?
  • 明らかにいじめがある学校があり、学校では目立つ人が標的にされるので、そういう学校だったら、自分は耐えられなかったかもしれない。
  • 同じ学校に外国人がいると仲間がいると思えるし、いじられる頻度が下がる。
  • みんなが外国人に慣れてくれるとありがたい。
  • 家族が作った母国の料理を美味しいと友達が言ってくれたのが嬉しかった。
  • 言葉、料理を褒められ、格好いいねとか言われると嬉しい。
  • 祖母が亡くなったときはコロナで行けなかった。一度渡航したらすぐには戻れないかもしれないという状況だった。コロナのように渡航制限という状況になると、海外にもルーツがあることを意識せざるを得ない。
  • 自分でどう思っているかによらず、外国にルーツがある事実は存在する。

                              最後に

                              4年ぶりの対面での開催となった今回のフォーラム、久しぶりの再会、新しい先生や大学生との出会いもありました。参加者20人、パネラー2人、企画メンバーが6人の総勢28人で、多文化共生について議論を交わす時間を過ごしました。

                              ひょうたん島問題のワークショップは2000年に制作され、2001年にIVY主催で行なった際の参加者の反応が残っているのですが、移民が増えることへの不安がワークショップの中で語られています。1990年に日系人労働者に対する入管法の改正により、家族と来日する日系人労働者が急増し、また在留期間の長期化による子どもたちの教育問題や周辺住民との関わり方など定住化による問題が表面化してきた時期と重なります。

                              それから20年、少子高齢化は加速し、コンビニ、ホテルだけでなく、山形県内の介護現場にも外国人就労者の姿が見られるようになりました。もはや外国人による就労なしでは日本人の暮らしは成り立たなくなっているという認識を持っている人は、少なくありません。また、外国につながりを持つ子どもたちが増えていることは、今回の参加者の発言からも窺い知ることが出来ます。

                              ところで、20年前に漠と感じた不安は解消されたのでしょうか。今回の企画の発端にあった周囲が気づかないまま問題が深刻化していく状況は、身近にいるかもしれない外国につながりを持つ人たちにも起こっていることかもしれません。

                              当事者の声を聞く、ワークショップでみんなで話し合うことで、漠たる不安に怯えることなく、身近にある状況に気付く一歩になればと思います。

                              ワークショップひょうたん島問題の第2回は、8月9日(金)18:00からの予定です。詳細決まりましたらご連絡いたします。ぜひ、ご参加ください。

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