IVYについて
はじめての方はまずこちらをご覧ください。
2022年より2年にわたってバングラデシュで行ってきた「脆弱世帯の女性のための生計向上プロジェクト」がこのたび終了いたしました。
バングラデシュ南部にある難民キャンプには、ミャンマーから逃れてきた避難民の人々が多く暮らしています。日々の水や食料も不足し、教育や就労の機会も閉ざされているキャンプでの生活はたいへん厳しいものです。
避難民を受け入れた地域の人々の生活もまた、難民問題の解決の糸口が見いだされない中で悪化の一途をたどっています。IVYはこうした地域に住む貧困層の女性たちに対して、農業技術支援を実施し、さらに彼女たちが協力し合って地元の市場へ農作物を出荷できるように支援を行ってきました。
2年間の事業を行った結果、研修に参加した女性たちのほぼ全員が、自分で育てた野菜や家畜を売ることで収入を増やすことができ、経済的理由で学校を辞めていた子どもをふたたび学校に通わせられるようになったり、病気になった時に薬を買ったり、病院に行けるようになりました。
そして何より、彼女たちは自信をえて、将来に夢を持つことができるようになりました。
そんな彼女たちの声をご紹介します。
セノワラ・ベーガムさんは18歳で結婚し、現在29歳、彼女と58歳の夫の間には3人の娘と1人の息子がいます。
彼女の夫は農業で収入を得ていましたが、6年前に病気になり、麻痺と糖尿病のため重労働ができなくなりました。そのため農業をやめざるを得ず、庭で自分たちが食べる分の野菜と鶏を育てていました。セノワラさんは鶏の世話をしていましたが、鶏の正しい育て方を知らなかったため、鶏が病気で死んでしまうことがよくありました。
夫の医療費や子どもたちの教育費が払えず借金をすることが多かったセノワラさんですが、IVYの農業研修のことを知り、現状が少しでも良くなるならと、参加することを決めました。
特に、鶏の飼育に興味があった彼女は、研修を通じて基本的な養鶏技術を学び、他にも鶏糞を使った有機肥料の作り方など、今まで知らなかった農業の知識や技術をたくさん学んで身に付けていきました。また、鶏小屋などの養鶏に必要な物資の配給も受けました。
写真:研修で学んだ知識を活かし、卵をライトで照らして孵化を確認する。
「今までは何も知らず適当に鶏を育てていましたが、研修でちゃんと勉強することで、鶏が育つようになり、売ってお金を儲けることができるようになりました。前は10羽しか飼っていませんでしたが今は65羽もいます。これからも養鶏を続けて生計を立てていきたいです。」
セノワラさんは現在鶏と卵を市場で売って毎月 9,000 タカ(=約12000円)を稼いでいます。稼いだお金で牛を買い、牛乳を1キロ120タカ(=約160円)で毎日近所の人へ売り始めました。この収入があれば、彼女は 4 人の子供の教育費、夫の薬、家族の食費をまかなうことができ、借金することはもうなくなりました。鶏の数が増えたため、自分たちも卵や鶏肉を頻繁に食べられるようになりました。
夫は鶏小屋を掃除したり、家畜に餌を与えるなど飼育を積極的に手伝ってくれ、また妻を精神的に支えています。
以前のように生活に困ることがなくなったセノワラさんには、牛の数を増やして小規模な農場を作りたいという夢があります。近所の人たちは、鶏を飼う時には彼女の知識を参考にしており、彼女の前向きな姿勢は周りにもよい影響を与えています。
アイシャ・ベーガムさん は 38 歳、夫は 42 歳で、3人の娘と1人の息子がいます。子どものうち 2 人は結婚しており、残りは 14 歳と13歳で学校に通っています。
夫は、日雇い労働者として近所の農家で農作業をして家族を養っており、働きものだったので昔はそれほどお金に困っていませんでした。しかし5年前に、夫は39歳の女性と再婚し、現在は半キロほど離れた別の家に2番目の妻と一緒に住んでいます。新しい妻は、夫がアイシャさんに会ったり経済的支援をするのを好まなかったため、彼女との生活を優先した夫は、家にお金を入れることがなくなりました。
収入がゼロとなり、アイシャさんは一人で子どもたちを養っていかなければならなくなりました。家族の生活費や教育費をまかなうことは難しく、作った野菜を近所の人に安く売ってぎりぎりの生活をしていました。
そんな中、頑張って農作業をする姿が現地スタッフの目に留まり、研修の受講をすすめられた彼女は、野菜栽培や養鶏など全ての研修に熱心に参加しました。鶏のワクチン接種と野菜の病気の予防に特に興味があり、スタッフに積極的に質問していました。
「毎年冬には家のほとんどの鶏が死んでしまい、どうしたらいいのかわかりませんでした。今は鶏にワクチンを打ってもらっているのでそういうことがなくなり、40羽から50羽くらいの鶏をいつも育てています。」
写真:農作業するアイシャさん
研修を受けてからは以前の4倍の土地を借りて農作業に励み、地元の市場で研修仲間と共に野菜や鶏を売っています。また、業者が直接畑に来て野菜を買い付けてくれるようになりました。売り上げも安定してきて、昨年は 180,000 タカ (約245,000円) を稼いで生計を立て、貯まったお金で牛を購入しました。この牛は、大事に育てて次の犠牲祭(注:家畜を神にささげるイスラム教の祭。家畜の需要が高まるのでヤギや牛の値段が高騰する。)で売る予定です。
夫は、アイシャさんの合意なく結婚し、妻子を放置している罪悪感からか、時々畑の手伝いに来てくれるようになりました。しかし、自分で生計が立てられるようになった彼女は、将来的に離婚することになっても困ることはないと考えています。また彼女は、「さらに農地を拡大し、養鶏場も運営したい」という夢も持っています。
注:イスラム教では最大4人まで妻を持つことができるが、全ての妻を平等に扱うことが条件であり、また妻の合意なしには新たな結婚をすることはできない。アイシャさんの事例では夫が義務を果たしておらず違法であり、これを理由に妻からの離婚の申し立てが可能である。
現地提携団体のスタッフは、この2年間、裨益者の女性たちの畑を定期的に訪れて野菜の生育状況や家畜の健康状態をチェックし、彼女たちのフォローアップを行ってきました。
生活の質が改善し、生活と心に余裕が生まれた女性たちは、時々夫や子どもをつれて明るい笑顔で事務所を訪ねてきてくれます。畑で取れたトマトやオクラを持ってきてくれ、毎日の生活について楽しそうに話す彼女たちから、私たちはいつも元気をもらっていました。
彼女たちが、2年間の研修や支援を通じて得た知識や経験を礎とし、これからもさらに自分たちの力で生計向上できることを願っています。
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